急に呼び出してごめんね
今日どうしても君に会いたくて
さあ、紅茶をどうぞ
今日のは特別おいしいと思うよ
新しいのを開けたんだ
キツネ?
ああ、今は奥の部屋で眠ってるよ
眠ってる間に君が来たのを知ったら
きっと残念がるだろうね
だから、今日君が来たことは二人だけの秘密だよ
ふふふ
あ、そうだったね
話したいことがあったんだ。
……ねぇ
君は僕の友達だよね?
―――うん…うん。
そうだね。
ごめんね、変なこと訊いて。
前に僕が話したこと、覚えてる?
あれから僕は忘れようとしたんだ
忘れられると思ってた
きっと一過性の感情なんだと
でも駄目なんだ
キツネを見る度に胸が締め付けられて
どうしようもなく苦しくて
手放そうとも思ったよ
でも僕には耐えられない
キツネのいない部屋なんて……
だけどね、気付いたんだ
忘れる必要なんて無いんだって
僕はキツネが好き
キツネも僕が好き
だったら忘れる必要なんて無いよね?
そう思わない?
久しぶりに噛みつかれちゃった
きっと怖かったんだね
え?
……うん、大丈夫だよ
いつもみたいに電気は使えないけど
ちゃんと用意しておいた
通販には何でも揃ってるんだね
ちょっと高いけど
でも最近はこういうの、普通のお店じゃ手に入らないし……
キツネはあの日みたいな眼をしてた
怯えた、潤んだ瞳
聞いたことも無い声で啼いて
その度に僕は
苦しくて切なくて
壊してしまいそうに強くキツネの体を抱き締めた
眩暈がするほど幸せだった
あんな幸せ、今まで感じたことも無い
体の奥底から愛しさが湧き上がって
抑えきれなかったんだ
……あっ
あ、うん、何でもないよ
何でも……
あの、えっとね
紅茶を淹れてきてくれない?
僕の代わりに
お湯は冷めたと思うから、沸かし直して
ゆっくりでいいからね
ゆっくりで
……
……あ、おかえりなさい
ごめんね、その……紅茶をさ
ああ、僕が注ぐから
君が火傷したら大変だ
砂糖とミルクは?
ねぇ 僕、君に訊いたよね
僕は狂ってしまったのか、って
確かに僕は狂っているかもしれない
でも誰かを愛したら
誰だって大なり小なり狂ってしまうものだと思うよ
もし気が狂うほどに
心が獣に変わってしまうほどに誰かを愛せない人がいるなら
その人はきっと不幸だ
でも君はそんな人じゃない
そうだよね?
ねぇ
ねぇ、聞いてる?
おかしいなぁ
こんなに早く効くなんて
もしかして分量を間違えたかな?
本当に僕はそそっかしくていけない
でも大丈夫
体は動かなくても意識は失わないはずだから
きっと最後まで
紅茶、おいしかった?