夜が明ける。
街が羽化する。
いつもの屋上で出会った、見知らぬ少女。
「怖くないの?」
「全然。私も同じだし」
2,3交わした短い会話の中。
不思議と、腑に落ちた。
彼女も「そういう」ものなのだろうと、頭より感覚で理解した。
「あ」
暇を持て余すこどもがするように、塗装の剥げたフェンスを一定のリズムで押したりひっぱったりしていた少女が、小さく叫んだ。声に雑じる、微かな怯え。
電波塔の先端が白く輝く。空の群青が縁からじわじわと、溶けてゆく。
夜の終わりが近い。
「見て」
「?」
真っ直ぐに前を向く。少女も同じ方向を見ていると思う。
明るくなった空に、刷毛で掃いたような雲が左右対称に広がる。
その中心、ビルとビルの合間から射す光線の鋒が、天を衝く。
夜が明ける。
新しい街が羽化する。
「あさ、きれい」
「ああ」
声にならない声が微風となって触角に触れた、気がした。
「夜明けだ」
ビルの縁を蹴って、生まれ変わった街に身を投じた。
振り返ったのは一度だけ。
だって、きっとまた会えるから。