まどろみから醒めると、障子を透かす光は白く明るかった。
布団に半身、空いた場所を手の甲で撫でる。まだ温かい。
表戸の、指二つ分の隙間から、ひやひやとした外気と粉雪が部屋の中へ吹き込んでくる。庭で人の動く気配がした。
時折ぷっ、ぷっ、と火の粉を噴く火鉢の、気休め程のぬくみを手がかりに、ようよう煎餅布団から這い出して、冷え切ったシャツの袖に腕を通す。
着替えを済ませ、庭に続く戸を上げると、雪の積もった縁側にわだかまったねんねこが、せっせと雪玉をこしらえていた。
「玉子」
もごもごと言って、ねんねこからにゅっと手が伸び、雪玉をひとつ、縁側の板の端に置いた。
雪玉はなるほど、先窄みの玉子のような形で、つくねんと新雪の座布団に座っている姿は、白いだるまの風でもある。
「何が生まれる?」
「なァんにも。生まれる前に食っちまうんだ」
「何が食べたい?」
「卵焼きがいい。おだしとさ、贅沢に砂糖たっぷりつかって……」
言葉尻が濡れて霞んだ。
ねんねこを羽織っただけの、裸の彼はいきなり立ち上がって、霜焼けた素足のつま先で、雪の玉子を蹴飛ばした。
玉子は空中で分解して、ばらばらの白いかけらはちらちら光りながら庭に散らばった。
「莫迦みたい。もう餓鬼じゃないんだよ」
それきり黙って立ち尽くす、小梅模様のねんねこの背中を抱き寄せる。