正体はあっさり見抜かれた。
「女の子、だったんですね」
「わかるのか」
少女の手が、私の手に重ねられる。
その膚は白く滑らかで、私の日に焼けてがさがさしたそれとは、全く別種の生き物のようだ。
それでも少女はこう言う。
「触れれば解ります。女の人の膚だ、って」
彼女がそう主張するのなら、そうなのかもしれない。
だがそうまで言われてもなお、私には、柔らかな午後の光を浴びて微笑む彼女が私と同じものだとは信じがたい。というよりも、その細く儚げな躯は、現のものと思えなかった。こうして触れ合っていても。
「君はまるで、ニンフのようだな」
思わず口を吐いて出た言葉に、彼女は目を瞬かせる。
言ってしまってからどうしようもない気恥ずかしさに襲われた。偽り無い本心だが、口説き文句としては苦笑ものだ。
「……何でもない、忘れてくれ」
俯くと、少女は微笑を深くして、しかし私を笑いはしなかった。
「嬉しいから、忘れません」
耳元で震える空気は、生暖かくて、優しい。
少女の手が私の肩を抱く。促されるまま身を横たえ、覆いかぶさってくる重みを受け止める。そのまま彼女の手が服のボタンを外そうとするので、驚いて起き上がる。
つられて身を起こした彼女は一瞬身を硬くしたが、すぐにこちらを気遣うように微笑む。
「どうかしましたか?」
「……あ、いや」
大きな瞳に覗き込まれて、答えに詰まる。
暫く何も言えずに視線を彷徨わせていたが、ここまできて恥らうのも却っておかしいと覚悟を決め、からからになった喉から声を絞り出した。
「そ、その……私は、このような場所で女を買うのが初めてで……
だから、何と言うんだろうな、ええと……
どうしたら良いのか……勝手がわからない、というか……」
ひとつ言葉を紡ぐたび、支離滅裂になってしまう。だが、とにかく私がとんでもなく緊張していることだけはわかってもらえただろう。
事が始まる前から疲労困憊してしまった私を見つめて、彼女は優しげな表情を崩さない。それに幾らか救われた気がした。……単に呆れているだけかもしれないが。
「では、総てねこに任せてくれますね?」
開きかけた私の唇に、彼女の唇が重ねられた。
* * *
瞼を透かす赤い光に、目を覚ました。
「……夕暮れか。すまない、眠ってしまった」
「いいえ、それに旅人さんが思うほど眠っていないと思いますよ」
この時期は早く日が暮れるから―――彼女はそう言って微笑んだ。唇の端に甘く優しい感情が滲んでいる。きっと誰かを待っているのだと、そんな気がした。
窓の外から馬の嘶きが聞こえた。魔法の時間の終わり。私はもう、行かなければならない。
「もう、さよならですか」
少し寂しそうな表情が、嬉しかった。
彼女が目を閉じる。躊躇った後、瞼にくちづける。彼女が目を開く前に立ち上がり、背を向けた。もう一度彼女に見つめられたら、泣いてしまう気がしたから。
私はこれから、片道の馬車に乗り、北へ向かう。