わたしはあるとき、蜘蛛と出会った。
彼の銀糸製の巣は、たくさんの活字が飾られていた。
それにどんな意味があるのかと、わたしは訪ねた。それ自体が意味なのだと彼は答えた。
風が吹き、言葉達が瞬いた。わたしはその場から立ち去った。
わたしはあるとき、水溜りと出会った。
彼女が悲しみに身を震わす度に、水面に移った景色がそわそわとさざ波を立てて揺れた。
わたしはそれを美しいと思ったが、彼女はわたしの言葉を受け入れなかった。
わたしはあるとき、野良犬とで出会った。
彼は三本の足で乾いた土に爪を立て、狂ったように吼え続けていた。
彼が何に怯えているのか、わたしにはわからなかった。
わたしはあるとき、わたしと出会った。
それはわたしと同じ姿では無かったが、確かにわたしだった。
わたしは、わたしではないわたしを見つめた。
わたしではないわたしも、わたしを見つめた。
しかし、わたし達が言葉を交わすことは無かった。
何故なら、その瞬間わたしは、わたしに喉笛を噛み千切られていたから。
わたしはわたしでなくなった。
でも、わたしの旅は終わらない。
あし が とけても
それがし は いかなければ ならない
わすれた つみ を つぐなう ため に