雨が降ってきた。
激しく打ち付ける水が髪にこびり付いた鱗粉を洗い流し、きらきら光りながら肌の上を滑り落ちていった。
数分前に羽を切り捨ててしまった事を少し後悔したけれど、どのみちほとんど鱗粉が削げ落ちていたから雨を防ぐ役割は果たさなかっただろう。
それに、雨に打たれて歩く時に感じる独特の寂寥感は嫌いじゃない。
そういえば彼はひどく雨を嫌っていた。少し年下の友人の、前髪に隠れがちな横顔を思い浮かべる。
今日は何をしているだろう。きっと締め切った息苦しい部屋の隅に蹲ってあの真っ黒に焼け焦げた壁をくすんだ目で見ている。
「三木は僕を救ってくれやしないだろ」
彼はそう言って口を歪ませる。慰めになるなら傷つけてくれたって構わないんだよと言ったら、彼は他人が死んで何が変わるのと泣いた。死にたいのは僕のほうだ。
何がそんなに辛いのかと訊けば、君は虫だから心が無いんだなと罵られた。どうしていいかわからずに黙り込むと、どうして怒ってくれないんだよとまた泣かせてしまう。そんな日の事を思い出していた。あの日の天気は雨だっただろうか。
手の甲で水滴を遮りながら、三木は空を仰ぐ。流石にそろそろどこかで雨を凌ぐ事を視野に入れたほうがいいかもしれない。
雨はまだ、止みそうにない。