闇を切り裂き、一筋の稲妻が落ちた。
後ろに飛ぶ。コンマ何秒前まで九重が立っていた場所にゴルフクラブが突き立った。ヘッドの下に、赤い布地が挟まってひらひらと靡いていた。
「中坊が鈍器持って襲い掛かってくるなんて、おっかない街だよォ」
破れた裾をちっちっと音を鳴らすように弄いて笑うが、目の底は冷たく燃えている。
刀に付いた血を一振りに掃い、番傘の柄と一体になった鞘に収める。
「今夜は退かせてもらうよゥ」
派手な音を立て傘が開いた。肩に担いで背を向ける。丸い縁から手が覗き、ひらひらと振られた。
八代は立ち上がり、クラブを縦に構え直す。嘘だ。直感した。油断を誘うつもりなのか。
ビル風が吹き抜けた。傘が九重の手を離れ、回転しながら空に舞い上がった。ほんの一瞬、八代の意識がそちらへ移った。九重にとっては十分すぎる、一瞬。
赤が翻り、広く裁けた裾から覗いた脚が力強く地を蹴った。前のめりの姿勢は端から防御など捨てている。
振り抜かれた刀をロッドにまともに食らって、あえて反動で後ろに飛ぶ。体に受ける衝撃はだいぶ和らいだ。が、再び見失う。咄嗟に背後へクラブを振り下ろした。
硬い感触に掠る。散った火花に赤い花弁が浮かび上がった。
「ふふ、やるねェ」
「そうでもない」
短いやり取りの間に、再び距離を置かれる。
九重は街灯の明かりが当たる場所に立った。無造作に刀をぶら下げた姿は隙だらけだ。明らかに誘っている。
誘うなら、乗ってやる。八代がクラブを構えなおした、その時。
頭上から、凄まじい破裂音とガラス片の雨が降ってきた。