上と下

八代はビルの屋上から、はるか下、月極駐車場を見下ろしていた。

いくつもの血だまり、逃げ回る複数の男女、その中で白人閃かせ駆け回る九重。

(楽しそうだ)

あれは戦いを楽しんでいる。

否、あれが楽しんでいるのは、戦いではなく殺しだ。

似ているようで、まったく異質なものだ。

ひとりの首が飛び、車のボンネットで一度バウンドし、フェンスの向こうに落ちた。

八代には、九重がいらだったように舌打ちをするところがはっきりと見える。あれなりに、殺し方にはこだわりがあるらしい。わかる気がした。

(またひとり、今度は胸から)

結局、九重と八代の違いは、目的と過程、どちらに重きを置くかなのだ。

血と死の香りに酔いしれるか、皮膚のひりつくようなスリルに身を置きたいのか。

どちらも根底に流れるのはイカレた破壊衝動。人殺しに変わりは無い。

(でも僕は、あいつじゃない)

あいつのように、誰でも満足できるわけじゃない。

強ければ強いほどいい。心が凍りつく恐怖を与えてくれる奴がいい。

頭の芯が狂っているほうがいい。情けや憐みなんて邪魔な感情を早々に殺してしまった奴が。

だから、あの男が一番いい。今のところは。

最後の一人がくるくると回りながら倒れた。

噴き出す赤を浴びながら、九重は上を見た。ちゃんと気付いている。まるで抜け目が無い。

背中に負っていたクラブを握る。綺麗に磨かれた表面に八代の顔が映った。笑っている。

九重が大きく刀を振る。振り払われた血液がアスファルトに弧を描いた。あいつも笑っている。

八代は深く息を吐き、両手を広げ、目下の赤い闇に身を投じた。

2008/11/19