ページをめくる。
「あ、早いです」
… めくる、
「早い」
… めくる、
「はーやーいー」
… めくり、 かけた手が止まる。
「…もう、さあ」
「うん?」
「お前がページめくれ」
斯くして匙は投げられた。
「えぇぇー」
寝台の上の、キャシアスの下の、アルソンが不平の声を上げる。
二人で一冊の小説を読み貸借の手間を省こうという"革新的"読書法を先に思いついたのは、果たしてどちらだったか。
「は、や、く、読み、終わ、れ」
キャシアスのおとがいがアルソンのつむじをリズムよくノックする。
「い、いたい痛い……それに頭が揺れて読めない。キャシアスさん、読むの早いんですよう」
「アルソンが遅い」
「あ、もうめくっていいです」
「自分でやれってば」
「僕がめくるなら上下チェンジですよ、チェンジ」
「なんで」
「ページめくり係は上に乗る決まりです」
「そんなルールいつ決まったんだ」
「僕が今決めました。異議は認めない」
「横暴だ。ご乱心めされたかアルソン殿」
「ふはは、聞く耳持たぬわー」
アルソンがうつ伏せから横向きに体勢を変えると、キャシアスは必然的に、ころんと転げてベッドの余剰に落っこちた。
うわあーやられたー、まぬけな断末魔を上げる。
「パリイ!」
「違う」
「細かいことを気にしていては大成しませんよ?」
「細かくない…けどもういいや」
「なんですかぁそのおざなりな対応はぁ」
「絡むな。酔っぱらいかお前は」
キャシアスは手を伸ばし、目の前に転がる金髪頭をふしゃふしゃかき混ぜた。
アルソンは心地よさそうに身じろぎし、キャシアスの腕に頬をすり寄せる。
「なに、眠いの?」
「休憩です。一旦休憩」
「まだ10ページしか読んでないよ」
「10ページ単位でインターバルを挟むこととします」
「そんなルールいつ決まったんだ」
「今」
「……とんだ独裁者だなあ」
と呟いたきり、キャシアスからの抗議はなく。
やがて静かな私室に響くのは、規則正しい寝息の二重奏。