「先生!隣、いいですかー?」
昼休み。
日当たりのいい空き教室で昼食を開いていると、女生徒に声を掛けられた。
一瞬、視線が迷う。顔は覚えているが、名前が思い出せない。
辞退の言葉を考えあぐねているうちに、彼女は机をぴったり隣に寄せて、席に収まってしまった。
「先生、自前のお弁当なんだ。あっ!もしかして、カノジョの手作り?うらやましー!」
「はは、そんなんじゃないよ」
安い香水のにおいと押しつけがましい好意が疎ましい。
女生徒の一方的なお喋りを遠くに聞きながら、部屋で待つ彼のことを想う。
彼は寂しがっているだろうか?まさか。彼の中にはもう、愛情も憎しみも見栄も嫉妬も、そんなつまらないものは何一つ入っていない。
弁当の蓋を開ける。女生徒が覗きこみ、ケタケタと笑う。
「何これ!おかず、肉ばっか!いかにも男の弁当って感じ!」
「恥ずかしいな、料理なんて滅多にしないから。少し食べる?」
半分ほどを弁当の蓋に取り分けて差し出すと、女生徒は遠慮する素振りも見せず箸をつけた。
「そこまで言うならお味見してあげてもいいかなー。ふふん、あたし結構料理好きなんだよ、こう見えても」
グロスを何度も塗り重ね油物を食べた後のようにてらてらと濡れた光を放つ唇が、甘辛いたれで炒めただけの肉片を次々飲み込んでいく。
ああ、そうとも。美しい彼の醜い中身など、どこの誰とも知れない女の血肉に変わり果ててしまえ。
「おいしい?」
俺は教師の顔で微笑んだ。