あれから一年が経ち、街にはまた春が来た。
彼がいた席には新しいバイト社員が座り、僕は相変わらず業績と人間関係に心を磨り減らしている。
時々思い出したように窓に積もった桜の花びらをかき集めて、掌の上のかさかさに干からびた花びらの山を眺めながらなんて女々しい事をしているんだろうと苦笑した後、ゴミ箱に放り込む。
子供の頃のきらきらした思い出をどこかに置き忘れて、僕は当たり前につまらない大人になった。
子供のまま大人になった彼は僕とは違う世界でかっこよく生きている。と、僕は信じている。
餞別だ、といって彼がくれたバッドはいつだって傘たての中で僕を待っていて、たまには外で素振りをしてみようかなんて思い立つのに、それなりに忙しい僕はまた今度暇なときにと後回しにしてそのまま忘れたふりをする。
冷め切って苦いだけの黒い液体を飲み干して、窓の外に目をやる。埃っぽい都会の春。去年の公園のひと時が夢のようだ。
あの日、泣きじゃくる僕を庇ってくれた彼の大きな背中を、僕はいつまで忘れずにいられるだろう。
けたたましい電話の呼び出し音が、感慨に耽る時間は終わりだと告げている。やれやれと首を鳴らしながら、今日の昼休みは必ず素振りをしようと心に決めた。