はじめから

いらっしゃい

今日は君に話したいことがあって

とりあえず紅茶をどうぞ

冷めないうちに

この間ね

君が帰った少し後だよ

キツネがちょっと、失敗をしてしまって

何を?

うーん

それを紅茶を飲んでる君の前で言うのは…

…わかった?

あはは、ごめんね

キツネに痛い思いをさせるのは嫌なんだよ

自分が痛いよりもね

しばらく大人しくしてたし

1回位なら良いんじゃないかって思ったんだけど

叱る時は、必ず同じように接しないといけないんだって

本に書いてあったの

だからその時もね

いつもと同じようにしたんだ

失敗したなぁ

何度も同じ事繰り返したのに

まだ学習しない

僕の頭は犬以下なんだ

紅茶が冷めたね

取り替えてくるよ

うん

またやりすぎちゃった

気絶はしなかったけど

その方が余計に苦しいよね

声も上げなかった

床に叩きつけられて

見えない手で押し倒されたみたいに

僕のほうが悲鳴を上げた

怖かったよ

あの子を僕の手で傷つけてしまうなんて

そんなことは絶対あっちゃいけないんだ

絶対に

それなのに僕は

濡れた床の上で

かわいそうに

体を痙攣させて

上目遣いで僕を見るんだ

助けてって

舌を出して喘いで

床を舐めるみたいに

それなのに

それなのに僕は

手を差し伸べてやらなかったんだ

動くこともできなかった

だって僕は

あのね

なんて言うのかな

その…

さ、紅茶を飲んで

お代わりはたくさんあるから

……

ねぇ

僕は頭がおかしいのかなぁ

犬に欲情するなんて

おかしいかなぁ

おかしいよねぇ

だって犬だもの

うん

でもね

僕、思うんだ

キツネにならいいかなって

おかしくてもいいかなって

やっぱり僕、どこか狂ってしまったのかなぁ

ねぇ

君はどう思う?

僕は一体、どこから狂ってしまったんだろう

2008/7/13
素敵絵を描いてくれた椛さんへの捧げもの