卵焼き

まどろみから醒めると、障子を透かす光は白く明るかった。

布団に半身、空いた場所を手の甲で撫でる。まだ温かい。

表戸の、指二つ分の隙間から、ひやひやとした外気と粉雪が部屋の中へ吹き込んでくる。庭で人の動く気配がした。

時折ぷっ、ぷっ、と火の粉を噴く火鉢の、気休め程のぬくみを手がかりに、ようよう煎餅布団から這い出して、冷え切ったシャツの袖に腕を通す。

着替えを済ませ、庭に続く戸を上げると、雪の積もった縁側にわだかまったねんねこが、せっせと雪玉をこしらえていた。

「玉子」

もごもごと言って、ねんねこからにゅっと手が伸び、雪玉をひとつ、縁側の板の端に置いた。

雪玉はなるほど、先窄みの玉子のような形で、つくねんと新雪の座布団に座っている姿は、白いだるまの風でもある。

「何が生まれる?」

「なァんにも。生まれる前に食っちまうんだ」

「何が食べたい?」

「卵焼きがいい。おだしとさ、贅沢に砂糖たっぷりつかって……」

言葉尻が濡れて霞んだ。

ねんねこを羽織っただけの、裸の彼はいきなり立ち上がって、霜焼けた素足のつま先で、雪の玉子を蹴飛ばした。

玉子は空中で分解して、ばらばらの白いかけらはちらちら光りながら庭に散らばった。

「莫迦みたい。もう餓鬼じゃないんだよ」

それきり黙って立ち尽くす、小梅模様のねんねこの背中を抱き寄せる。

2012/1/11
もみさんの投げたお題でSS。