わたしの話/記憶の断片

わたしはあるとき、蜘蛛と出会った。

彼の銀糸製の巣は、たくさんの活字が飾られていた。

それにどんな意味があるのかと、わたしは訪ねた。それ自体が意味なのだと彼は答えた。

風が吹き、言葉達が瞬いた。わたしはその場から立ち去った。

 

わたしはあるとき、水溜りと出会った。

彼女が悲しみに身を震わす度に、水面に移った景色がそわそわとさざ波を立てて揺れた。

わたしはそれを美しいと思ったが、彼女はわたしの言葉を受け入れなかった。

 

わたしはあるとき、野良犬とで出会った。

彼は三本の足で乾いた土に爪を立て、狂ったように吼え続けていた。

彼が何に怯えているのか、わたしにはわからなかった。

 

わたしはあるとき、わたしと出会った。

それはわたしと同じ姿では無かったが、確かにわたしだった。

わたしは、わたしではないわたしを見つめた。

わたしではないわたしも、わたしを見つめた。

しかし、わたし達が言葉を交わすことは無かった。

何故なら、その瞬間わたしは、わたしに喉笛を噛み千切られていたから。

わたしはわたしでなくなった。

でも、わたしの旅は終わらない。

 

あし が とけても

それがし は いかなければ ならない

わすれた つみ を つぐなう ため に

2007/12/25