ある日の会話

「この前、昴とふたりで留守番してて」

「うん」

「おやつ食べてるときに昴がジュースをぶちまけた訳ね」

「相変わらずぼーっとしてんなぁ……」

「あわてて服脱がせて、びっくりしたんだ」

「ナニが付いてなかった!」

「……… 馬鹿じゃないの?」

「じゃあ何よ、何が無かったの」

「あるべきものは全部あるんだよ。そうじゃなくて、傷が」

「あー、あいつよく転ぶから」

「そんなレベルの傷じゃないんだよ。深く抉れてて、塞がった痕が赤黒くなってて。
 びっくりして、ここどうしたのって昴に聞いたら、犬に噛まれたって言うんだよね」

「へーぇ。で?」

「え?」

「いや、えらく深刻な顔してるから、まだ何かあるのかと思って」

「何かって言うか、うーん…

 ここから先は俺の勝手な推測だけど」

「うん?」

「犬に噛まれてあんなひどい傷になるかな、って」

「程度にもよるだろ」

「それはそうだけど…
 なんか、犬に噛まれたって感じじゃないんだよね。傷跡の感じが。勘だけど」

「……お前、何が言いたいの?」

「もしあれが……もしもだよ、犬じゃなくて、人に傷つけられたんだとしたら……誰がやったんだろうって」

「理仁、お前まさか……」

「なんであの子、自分の父親の事『久保さん』って呼ぶの?圭太はおかしいと思わなかった?」

「馬鹿言うなよ!あの人がそんなことする訳無いだろ!」

「いちいち怒鳴らないでよ!  ……ちょっと、考えちゃっただけなんだから」

「変な事考えてんじゃねーよ……もう二度と言うなよ」

「わかってるよ…」

「昴にも言うなよ」

「当たり前でしょ。馬鹿じゃないの?」

「……その『馬鹿じゃないの?』っていうのもやめろ」

「やだ」

2009/1/13